
第73回 日本エッセイスト・クラブ賞 受賞の言葉

第73回 日本エッセイスト・クラブ賞 審査報告
審査報告
山なみの影がさす町へ移住して
審査委員長 秋山 秀一
第73回を迎えた日本エッセイスト・クラブ賞の審査報告をいたします。
今回は、22名の会員からの推薦作品が29点、出版社からの推薦が57社122点で、重複を除き合計144点の応募がありました。
これらのうちから、3月11、12両日の予備審査で、審査対象を69点に絞り込みました。
審査は、まず3月18日の第1回審査委員会で、1作品につき2名の委員に割り当て、全作品を読み、審査いたしました。4月8日の第 2回審査委員会、4月22日の第 3回審査委員会、5月7日の第 4回審査委員会を経て、次にあげる 4作品が最終候補に残りました。
笠間直穂子さん『山影の町から』
新田和長さん『アーティスト伝説 レコーディングスタジオで出会った天才たち』
星野源さん『いのちの車窓から2』
李琴峰さん『日本語からの祝福、日本語への祝福』
最終候補に残ったこれら 4作品の全てを、今度は15名の審査委員全員が読んで、5月27日の最終審査委員会を迎えました。
最終審査委員会では、委員全員が4つの作品について各々の意見を述べ、どの作品がクラブ賞に最もふさわしいかを発言しました。
委員全員の発言の後、投票に移りました。
第 1回目の投票では、審査委員の意見が分かれ、ともに5票で最も多かった『山影の町から』と『アーティスト伝説』について再度投票を行った結果、審査委員多数の支持を得て、笠間直穂子さんの『山影の町から』が第73回日本エッセイスト・クラブ賞に決まりました。
笠間直穂子さんは、1972年生まれの現在國學院大學文学部教授。フランス語近現代文学研究、仏日文芸翻訳がご専門で、多数の著書や訳書があります。東京から、山なみの影がさす町・秩父へ移り住むことにした笠間直穂子さん。「庭と植物、自然と文学が絡み合う土地」と笠間さんが言う秩父で、この本は書かれました。
今後も、エッセイストとしての笠間直穂子さんの益々のご活躍を祈念して、審査報告といたします。
審査委員
委員長 秋山 秀一
委 員 秋岡 伸彦 伊藤 芳明
臼井 和恵 海老沢小百合
木俣 正剛 滝鼻 卓雄
谷村 鯛夢 内藤 啓子
並木きょう子 降幡 賢一
堀尾 眞紀子 増井 元
松本 仁一 桃井 恒和
日本エッセイスト・クラブ賞とは

「新鋭なる評論家、エッセイストが一人でも多く出現、自己の正しい自覚において新鮮なる活躍を」――。そう唱えて、日本エッセイスト・クラブ賞が制定されたのは、クラブ創立翌年の1952年のことです。
小説や詩歌などの分野では各種の顕彰制度が整っていましたが、評論・エッセイの領域では初めての試みでした。
ただし、「受賞の対象となるエッセイは、その範疇(はんちゅう)がひろく、かつ甚だ莫(ばく)としている」と、初回の審査について、当時の理事長、阿部眞之助自身が述懐(会報 4号)しているように、選考はかなり難航したようです。
審査対象とする作品は出版社や会員、そして著作者本人から推薦されたものですが、随想、評論、ノンフィクションから伝記、研究、ドキュメント、旅行記などまで、まさに多種多様な作品です。それらを対象に審査の難航はその後も繰り返される中で、ユニークな賞としての歴史が築き上げられてきました。
2025年でこの賞も通算73回を数えました。受賞者は計196人にのぼりますが、受賞作品の幅広さは当然、受賞者の活躍する分野の多様性につながります。その名簿をみると、政治や法律の専門家、あるいは理系の学者、技術者、芸術家、音楽家らの名前が並んでいます。
例えば(以下、敬称略)、学術分野では、民俗学者の宮本常一、最高裁判事で法学者の団藤重光、西洋史学者の木村尚三郎、数学者の藤原正彦。
芸術分野では、洋画家の野見山暁治、書家で美術家の篠田桃紅、染織家の志村ふくみ。音楽分野では、シャンソン歌手の石井好子、指揮者の岩城宏之、シンガーソングライターのさだまさし。
さらに演劇・映画などの分野では、俳優で演出家の芥川比呂志、女優の高峰秀子、沢村貞子、吉行和子、岸惠子。そして、政治家の加藤シヅエ、作家の畑正憲、中野孝次、元NHKアナウンサー山川静夫、イタリア在住のジャーナリストの内田洋子——こうした方々が受賞しています。
まさに百花繚乱です。
第73回 日本エッセイスト・クラブ賞 として、
笠間直穂子さんに授与されたクリスタル盾
