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 エッセイは最初の一行から読む者を引きつける。

日本エッセイスト・クラブ賞受賞作の数々。美しい本の装丁とともにご覧ください。

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 みかんの盛りのころになると、八百屋のおかみさんが、よく、学校がえりの私を呼びとめた。

 「あたりみかんがあるよ。母ちゃんに、そうお言い」

 私はみかんが大好き。おかみさんもそれを知っていた。

                  沢村貞子『私の浅草』

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 「芸てえものは、実に、努力のもんです」

 もう十五年ばかり前になるが、私の司会する番組に落語家の桂文楽が出演して、こんなことを言ったのを、今も鮮明に覚えている。

                  山川静夫『名手名言』

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 ある年、灌頂の日に、墨の供養のようなことをした。冬が過ぎて、磨る墨もにおい立つような気がしたので、しまいこんである旧作や反古をとり出してひろげると、四月の空気に触れて、古い墨痕が生気をとり戻し、息づくように見えた。

                  篠田桃江『墨いろ』

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 「夕食にしましょうか」

 マダムがドアから顔をだした。

 夕暮れどき、中庭に向ったアパートの窓には灯がともって、お皿のふれあう音や、こどものカン高い声が私の部屋までつたわってきた。

    石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』

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 自分の伝記を書くほど易しい事はないし、また難しい事もない。そんなものは無いと言ってしまうのが一番かも知れぬ。

         芥川比呂志『決められた以外のせりふ』

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 初めてそのバールに入ったのは、今から二十年も前になるだろうか。

 その頃、私はその店と同じ通り沿いに日本から引っ越してきたばかりで、荷物が片付くまで連日、やれコーヒーだ昼食だと、バールに足繁く通っていた。

         内田洋子『ジーノの家 イタリア 10 景』

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 夜の天井は星屑であり、下には不動の暗黒があった。この暗黒が本当に太平洋であるかどうかは見極められなかった。

            藤原正彦『若き数学者のアメリカ』

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 お金の無い歳の瀬は切ない。

 子どもの頃、歳末になると母の懐の心配ばかりした。父は足場丸太専門の材木屋で、檜林や杉林の間伐材を捨て値で譲り受け、それを足場丸太として商うというのは元手のない材木屋としては良いアイデアだった。

                さだまさし『さだの辞書』

​NEWS
2025/06/23

第73回日本エッセイスト・クラブ賞 贈呈式行われる

2025/10/17

日本エッセイスト・クラブのホームページが新しくなりました!

◆第73回日本エッセイスト・クラブ賞は、笠間直穂子さん『山影の町から』に決定‼
『山影の町から』
『山影の町から』

 第73回日本エッセイスト・クラブ賞の贈呈式が6月23日、東京・内幸町の日本記者クラブ内で行われ、受賞作『山影の町から』(河出書房新社)の著者、笠間直穂子さんに賞状と賞金50万円、副賞のクリスタル盾が贈られました。

 今回のクラブ賞には144点の応募がありました。4点が最終審査に残り、そのうち『山影の町から』が受賞作と決まりました。

日本エッセイスト・クラブ 大村智会長

エッセイへの誘い

日本エッセイスト・クラブ会長
大 村  智

 雑多な業務を遂行している中にあっても、時には思いがけない感動を呼ぶ場面に出会う。この折々に触れ出会う感動を綴っておき、時を経て読む機会があると、その感動を甦らせることができる。文章にしておかないと忘れて、せっかくの感動体験は脳裏から消えてしまう。しかし、優れた文章を目指すべきではあるが、これは一朝一夕にして成るものではない。

 私の畏敬する洋画家、故中川一政画伯は、「上手は下手の手本なり、下手は上手の手本なり」と言っていた。また、論語には「これを知る者は、これを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉があるように、まずはエッセイを書く楽しみを身につけたい。

 日本エッセイスト・クラブは、1951年に馬場恒吾、阿部眞之助、中谷宇吉郎らによって始められた。私も2001年に入会が叶って以来20数年になるが、この間に色々な職業を持つ人々の味わいのあるエッセイに触れ、楽しんできた。これからも一人でも多くの会員を迎えて交友を深めながら、エッセイを通じ人生を楽しみ豊かなものにすることができることを願っている。

 (2015年ノーベル生理学・医学賞受賞)

エッセイって クラブって

 現会長の大村智は日本エッセイスト・クラブについてこう書いています。

 

「日常生活の中で出合う諸々の主題について思うことを、平易な言葉で自由に表現することを楽しむ人々の集まりです」。そして、エッセイの魅力を、「ひとつの道を歩んだ者の思索の結晶であり、読む者を力づけると共に、書くことへの楽しさに誘ってくれます」としています。

 

 クラブの会報はまた、最終ページでクラブの理念をこんな言葉で説明しています。

 

「エッセイは、日常の中で感じたことを、わかり易い言葉で語りながら、そこに時代と書き手の生き方がにじみ出る、それぞれの思索の芳醇な結晶といえるものです。当クラブはそうしたエッセイを愛し、その素晴らしさを広めるとともに、美しい日本語の文化を守っていこうと考える同志たちの集まりです」

 

 事務局にあるクラブ室には、これまでの会員の本がずらりと並んでいます。過去70余年にわたる会員の思索の結晶がぎっしりと埋め込まれた書棚です。もちろんエッセイスト・クラブ賞の受賞作品の数々も並んでいます。これが私たちの誇りです。

 

 この間、エッセイを取り巻く社会状況は大きく変化しました。安直に発信可能なSNSが行き渡り、人間にとって代わるような生成AIの利用も広まっています。活字文化の衰退が言われます。

 

美しい日本語の文化を守るため、日本エッセイスト・クラブの果たすべき役割はますます大きくなっていると考えています。

モンテーニュ 『エセー』

​活動の三本柱

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年3回、春、秋、冬に発行。

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クラブの活動で最大の柱となります。

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年に3回、クラブ事務局に

あるクラブ室で開催。

クラブにおいでいただければ、収蔵図書をご覧頂けます。ただし、クラブの会員、友の会会員に限ります。それ以外の方は会員との同伴に限り可能です。来訪希望者は、クラブ事務局あてに事前にメールし、クラブが開いているかどうかをご確認ください。

メール:info@essayist-club.jp  

日本エッセイスト・クラブ ロゴ
​〒105-0004 東京都港区新橋1-18-2 明宏ビル別館 6階
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